
特定荷主の制度は、法律に基づき一定基準を満たす企業に対して義務を課す制度になります。本制度は、基準や義務に加えて罰則もあるため、特定荷主に該当する企業は内容を周知しておかなければなりません。
そこで本記事では、特定荷主の定義や基準、課される義務などを徹底解説します。また、特定荷主が選任すべき物流統括管理者とCLOの違いについても分かりやすく解説しますので、ぜひご参考にしてください。
目次
特定荷主とは? 制度の目的と背景
特定荷主とは、省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)や流通業務総合効率化法に基づき、一定基準を満たした企業のことです。
制度の目的
この制度は、物流の効率化を通じてエネルギー消費を削減することを目的に設けられたものです。
制度が設けられた背景
トラックドライバー不足や輸送効率の低下といった業界の課題に対応するため、特に影響力の大きい大手荷主企業を中心に、物流改革を促す仕組みとして運用されています。
現在では、エネルギー削減やコスト最適化にとどまらず、ESG経営やサステナビリティ戦略の一環として取り組むことが求められています。
特定荷主の基準
主な基準は、省エネ法と流通業務総合効率化法によって定められています。まず、省エネ法の基準においては、年間の貨物輸送量が3,000万トンキロ以上であることと定められています。
一方で、流通業務総合効率化法においては、前年度にトラックで輸送した貨物の総重量が9万トン以上の場合は該当します。
| 法令 | 判定基準 | 条件/補足 |
|---|---|---|
| 省エネ法 | 年間輸送量(トンキロ) ≥ 3,000万トンキロ | 自社便・外注便を含むすべての貨物輸送量を合算。荷主保有車だけでなく外注委託分も含めて算定。 |
| 流通業務効率化法 | 前年度のトラック輸送貨物重量 ≥ 9万トン | 通常はトラック輸送分を対象。鉄道・船舶輸送は別計上される場合あり。 |
※貨物輸送量「トンキロ」とは、輸送した貨物の重量「トン数」×輸送距離「キロメートル」で算出します。
参考:国土交通省_輸送トンキロ
特定荷主に課される義務
特定荷主に指定されると、法律に基づいてさまざまな義務が課されます。これらの義務は、省エネ法や流通業務総合効率化法に基づいています。これらを適切に履行することで、法令遵守を図るだけでなく、企業全体の物流戦略の強化や環境負荷の軽減にもつなげることができます。
そこでここからは、それぞれの法令で定められた義務内容を詳しく解説していきます。
省エネ法における義務
省エネ法に基づいて以下の義務が課されます。
- 輸送量届出書の提出
- 中長期計画の作成・提出
- 定期報告
初年度、所定の様式で年間輸送量・エネルギー使用量を記載し、経済産業局長に提出。
エネルギー削減目標・施策を記載、毎年 6月末までに主務大臣に提出。
前年度の輸送量・使用エネルギー・計画進捗・改善結果を毎年報告。
| 年次 | 提出書類 | 提出先 | 締切時期 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 初年度 | 輸送量届出書 | 経済産業局長 | 指定期日 | 以降の基準値算定の基礎となる |
| 毎年 | 中長期計画 | 主務大臣 | 6月末 | 改定があれば修正可能 |
| 毎年 | 定期報告 | 主務大臣 | 指定期日 | 進捗・実績を記載 |
また、こちらの義務を履行する際の「押さえておきたいポイント(加筆)」を以下に示します:
- 計画目標が高すぎると実行不可能になるため、現実性を持たせた数値目標の設定が必須
- 中長期計画には具体的施策を明記(例:積載効率改善、共同配送導入、IT 物流管理導入など)
- 実績報告では前年度比比較・要因分析を入れることで改善策を次年度に反映しやすくする
特定荷主に指定された初年度、年間の貨物輸送量やエネルギー使用量を記載した「輸送量届出書」を管轄の経済産業局長に提出する必要があります。また、エネルギー削減の目標や具体的な取り組みを明記した中長期計画を毎年作成し、6月末までに主務大臣に提出しなければなりません。
その他にも、毎年、前年度の輸送量やエネルギー使用状況、中長期計画の進捗を主務大臣に報告する必要もあります。
流通業務総合効率化法における義務
指定されると、流通業務総合効率化法に基づき以下の義務が課されます。
- 物流統括管理者の選任
- 中長期計画の作成・提出
- 定期報告
選任者は物流・運輸に関する知識・経験が望ましい。社内人材で足りなければ外部登用も検討。
輸送効率化施策、共同輸配送、輸送モード転換、回送対策、積載率向上策などを具体項目で記述。
法令で定められたフォーマット(様式)があるため、形式・記載事項に漏れないよう確認。
| 項目 | 物流統括管理者 | CLO |
|---|---|---|
| 法制度上の義務 | 流通業務総合効率化法上の選任義務 | 法制度上の義務はない(任意) |
| 役割範囲 | 日常物流の効率化・計画実行・報告 | 戦略レベルの物流ビジョン立案、部門横断調整、DX/Gロジスティクス最適化 |
| 権限・立場 | 部門責任者レベル | 経営層と近いポジション |
| 求められるスキル | ロジスティクス知識、実務遂行能力 | 経営視点、分析力、IT理解、調整力 |
| 導入コスト | 比較的低い | 高め(人材採用・待遇・組織設計が必要) |
まず、物流効率化を統括する責任者として、社内に物流統括管理者を選任する必要があります。また、中長期計画を作成し主務大臣に提出しなければならないほか、計画の進捗状況や成果を毎年報告する義務もあります。
義務違反に対する罰則や行政処分
省エネ法や流通業務総合効率化法で定められた義務を履行しない場合、以下のような罰則や行政処分が課される可能性があります。
・指導、勧告
・公表
・罰則
例えば、省エネ法において中長期計画で虚偽の内容で届け出を行った場合、50万円以下の罰金が科せられることがあります。また、国が指導したにもかかわらず改善が見受けられない場合、公表や行政処分、または100万円以下の罰金が科せられることがあります。
これらの処分を回避するためにも、義務の内容を正確に把握し、計画的に対応することが重要です。
特定荷主が選任する物流統括管理者とCLOの違いについて

指定されると、物流の効率化を推進するため社内に「物流統括管理者」を選任することが義務付けられます。この役職は、企業の物流活動全体を統括し、合理化を実現する重要な役割を担います。
そこでここからは、物流統括管理者や近年注目されているCLOの違いについて詳しく解説します
物流統括管理者とは?
物流統括管理者とは、指定された企業が流通業務総合効率化法に基づき選任しなければならない責任者のことです。この役職は、企業の物流活動を統括し、効率化や合理化を推進する役割を担います。
具体的には、物流の現状を分析し、改善のための中長期計画を作成・実行する責務があります。また、計画の進捗状況を定期的に報告し、目標達成に向けた調整を行います。物流統括管理者には、物流業務に関する専門知識だけでなく、社内外の関係者と連携して効率化を実現するリーダーシップが求められます。
CLO(Chief Logistics Officer)とは?
CLO(Chief Logistics Officer)とは、企業の物流戦略全般を統括し、サプライチェーン全体の最適化を図る最高責任者のことです。CLOは物流コストの削減や配送効率の向上、環境負荷の軽減といった課題に対し、全社的な視点から計画を立案し実行する役割があります。
主に戦略レベルでの意思決定に焦点を当てており、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグローバル物流の最適化など、企業の競争力向上を目的とした施策にも関与します。また、CLOには、物流分野の専門知識だけでなく、経営戦略や財務分析のスキル、さらには多部門との連携を促進する調整力が求められます。
つまり、物流統括管理者とCLOは「企業の競争力を高める戦略的リーダー」としての役割を担っており、同一のものとして取り扱われているのが一般的です。
以下の記事では、CLOについて詳しく説明しております。
CLO(物流統括管理者)とは?義務化に対応するためのポイントを解説
特定荷主がまず取り組むべきこと
特定荷主に指定されると省エネ法や流通業務総合効率化法に基づくさまざまな義務が課されますが、それらを効果的に遂行するためには具体的な取り組みを計画的に進めることが重要です。
そこでここからは、特定荷主が最初に取り組むべき基本的なステップについて解説します。
年間の貨物重量を把握する
特定荷主に指定されるかを確認するためには、自社の年間貨物輸送量を正確に把握することが必要です。まずは貨物輸送量の基準(省エネ法では3,000万トンキロ以上、流通業務総合効率化法では9万トン以上)を満たすかどうかを確認するため、物流データの収集と分析を行いましょう。
これらのデータを把握することで、効率化が必要なポイントを明確にし、具体的な改善策の立案も可能になります。
中長期計画の作成および実行
法律に基づき、中長期計画を作成し実行する義務があります。この計画はエネルギー消費や輸送効率に関する現状分析を踏まえ、具体的な削減目標や改善策を明記します。
例えば、トラックの積載率向上や輸送ルートの最適化、ITを活用した物流管理の効率化などが含まれます。計画は現実的かつ実行可能な内容でなければならず、毎年の進捗状況を定期報告として提出する必要があります。
なお、計画を着実に実行することで、法令遵守だけでなく、物流コスト削減や企業価値向上なども期待することができます。
目標設定とモニタリング体制構築
CLOや物流統括管理者を導入する際には、明確な目標設定とモニタリング体制の構築が欠かせません。まず、年度目標と中期目標を連動させた KPI 設計を行い、短期的な成果と長期的な成長戦略を両立させることが重要です。
その上で、BI ツールや物流管理システムを活用したダッシュボード化・可視化を進めることで、現場と経営層の双方が状況をリアルタイムに把握できる体制を整えられます。
さらに、四半期ごとのレビューや施策の振り返りを行い、次年度の計画に反映させる改善サイクルを定期的に回すことで、継続的な物流改善と経営戦略の進化を実現できます。
特定荷主制度に関するよくある質問
Q.自社が特定荷主かどうか確信が持てません。どうすればよい?
A.省エネ法では、年間の貨物輸送量が3,000万トンキロ(=輸送重量×輸送距離)以上 の企業が対象となります。 一方、流通業務総合効率化法(物効法)では、前年度にトラックで輸送した貨物の総重量が9万トン以上 の荷主が該当します。
義務を満たすための最優先施策は?
A.データ整備 → 中長期計画策定 → モニタリング設計の順で取り組むのスムーズです。特にデータ整備は情報の基盤となるため先行すべきです。
義務違反で実際に課された罰金や公表事例は?
A.具体的な公表事例はまだ確認できませんが、特定荷主制度では、報告義務の不履行や虚偽の申告を行った場合などに、50万円以下の罰金が科されることがあります。 また、改善勧告や命令に従わなかった場合は、企業名が公表される仕組みになっています。 金銭的な罰則に加えて、こうした公表による取引先からの信頼低下が生じるリスクもあるため、法令に基づいた適正な報告と対応が重要です。
外部の専門家(コンサルタント)を活用すべきか?
A.初めて制度対応をする企業やリソースが限られる企業にとっては、外部支援は大いに効果があります。制度理解・データ設計・計画策定のサポートを受けることを検討ください。
まとめ
特定荷主制度は、大規模な貨物輸送を行う企業にエネルギー効率化や物流合理化を求めるための制度です。輸送量届出書の提出や中長期計画の作成・実行、定期報告といったさまざまな義務が課されます。
法令遵守と効率化を両立させる取り組みが企業の競争力向上にもつながるため、課された義務を果たしつつ、効率化を実現させましょう。
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